あなたを抱きしめる、唯一の


 一時間に一本しかない電車を降りる。二両しかない電車がガタゴトと去っていくのを見送って、私はホームの階段を下った。

 雑木林と田んぼ、それ以外は民家がぽつりぽつりとあるだけ。

 これが、私の故郷。

 特に変わっていない風景に、私は目もくれずにタクシー乗り場を目指す。

 ここも無くなってはいないようで、でも台数は減ったタクシーのうち一台の窓を叩く。


「はい、どこまでですか?」

「巫女ヶ浦神社までお願いします」


 手短にそう告げて、後部座席に乗り込む。ひなびた臭いがムッと迫ってきて、マスクをしておいて良かったと思った。


「巫女ヶ浦ですね、では出発します」


 愛想のない声と共に、車は滑るように走り出した。運転手の探るような目つきから逃げようと、窓の外をただ眺める。

 のどかな田園風景はやはり出ていったころと違わない。少しは変わってるのかもしれないけど、そんなのわからないし。


「お客さん、巫女ヶ浦まで観光?」


 ……頼むから静かにしていてほしい。そうは思っても、運転手はきっと離してくれない。ここはそういうところだ。


「ええ、親戚の家に用事で」


 こういうのは適当に返事をするしかない。私は腹をくくって窓の外から視線を外した。