彼女はそれだけ言うと、私の横をそそくさとすり抜けてしまった。
「……?」
何がなんだかわかったものじゃなかった。それでも仕事は待ってくれない。
モヤモヤしたものを抱えながら、私はささっと着替えを始めた。今日からは笹栗のチラシを袋に入れる作業が追加される。うっかり忘れないようにしないと。
私はいつも通りに身だしなみをチェックして、昨日の夜に手入れしたばかりの爪を確認する。
夜に爪を切ると、親の死に目に会えなくなる──遠い昔、故郷のお年寄りに言われたことを思い返した。
気にせず切っていたが、彼ら彼女らは私のそういうところが気に食わなかったんだろうな……と従業員用の通路を歩きながら思った。
「おはようございます」
すれ違う従業員の人たちと挨拶を交わしながら、つるばみ屋のカウンターへと向かう。いつも通りの朝だ。
ただ違っているのは、菅野さんの様子だった。
私が笹山さんに応対していると、ちらちらと視線を感じる。
刺々しいものではない、むしろちょっと困ったお客様に当たってしまったときのような……心配してくれているときの視線だ。



