あなたを抱きしめる、唯一の


 そこまで言ってしまってから、私は自分の口を抑えた。頬が熱くなっていくのが自分でもわかる。

 笹山さんは一瞬だけキョトンとした顔になったけど、すぐに破顔して口を開いた。


「そういうとこ、好きなんだよね」


 私は天まで昇りそうになる気持ちを、足をつかみ地の底に沈めるつもりで引きずり落とした。

 その結果出てきたのは、「ああ、その、どうも」という何の面白味もない最低最悪の返事だったが。

 けどいいや、浮かれて勘違いするよりは。


「仕事にすっごい一生懸命だよね」

「あーいえ、そんなことは」

「会ったときからそうだったし……和菓子が好きなの?」

「ええ、その、食べるのが好きで……」


 へどもどしながら返しているのに、彼はつまらなくないんだろうか。うつむきがちになった顔をそっと上げると、ひどく甘い瞳が私を捉えていた。


「棚島さんがすごく一生懸命だから助けたくなるし、できれば頼ってほしい」


 その言葉の後は、ろくに勉強に身が入らず……また笹山さんのお世話になることが決定したのだった。