それでも集中してしまえば、ちっとも気にならないから不思議だ。
「そうか……別の、簡単な英語で言い換えてしまえばいいんですね」
「そう、たとえば──」
笹山さんの教え方はおっとりしていて、友だちと会話しているような気分になる。
しかもそれだけじゃなくて、上手い。学校の授業みたいに、文法とか語彙とかをひたすら詰め込むとかじゃない。会話の中で私が気づけるように誘導してくれている。
「いつも棚島さんが使っている接客用語。あれから考えてみようか」
「ご試食はいかがですかは……試食は……えーと」
「つまり味見だよね」
「! ああ、味だから、テイスティング」
笹山さんは私がこうして正解すると、甘やかな笑顔を浮かべてくれる。この人のそんな顔を、もっと見てみたくなる。
いけない。私にとって笹山さんはお客様で、笹山さんにとっては少し仲良くなっただけの店員で。
何度も思い直し、その都度、やっぱり自分は特別なんじゃないかと都合のいい考えが私の思考を蝕んでしまう。



