あなたを抱きしめる、唯一の


 そして「明日の終業後に、駐車場にある従業員用の出入り口で」と話はとんとん拍子にまとまり、私はとりあえずノートとペンをバックパックに詰め込んで出勤した。

 ……のだけど、これで良かったんだろうか。

 今さら後悔が心をじくじくと侵食してきて、横目で笹山さんを伺う。

 彼は、お客様。

 私は、販売員。

 本来なら、立場をわきまえて接するべきであって、こうして友だちのように気安くしていい間柄ではないのに。

 このままだと、きっと勘違いしてしまう。


「棚島さん、ここにしよう」


 突然の発言に、私は身体をビクッとしてしまう。いけない、いけない。笹山さんに失礼だ。

 笹山さんが指差したカフェは、大きな駅の近くなら必ず展開しているチェーン店だった。中を覗くと、それほど混んではいないようだった。


「はい、あの、よろしくお願いしますね」


 私がそう言うと、笹山さんはポンと私の背中を軽く叩いた。


「大丈夫、そんな緊張しないで」


 だから、そんなことされると勘違いしちゃうんだって!