従業員用の出入り口、通称“裏口”は、警備員室のすぐ隣りにある。そこの守衛さんに挨拶して、私たちは重い鉄製のドアを開けた。
地下の駐車場と繋がっている裏口の近くで、笹山さんは壁に寄りかかるようにして立っていた。
「笹山さん、お待たせしました」
「あ、大丈夫です」
彼はスマートフォンをポケットに入れると、軽く頭を下げる。
眉まで隠す前髪と、太縁の眼鏡は会ったときからずっと変わってない。服装だけはいつも違っていて、今日はクリーム色のニットと濃紺のパンツでゆったりした印象を受ける。
「こんにちはー」
私の斜め後ろのほうで、菅野さんはにこりと笑って控えめに会釈した。さすがに最初からガンガン絡んだりはしないか。
「どうも、こんにちは」
「笹山さん、こちらはつるばみ屋の先輩で、菅野さん」
「はじめまして」
菅野さんが一瞬だけ、なんとも言えない奥歯にものがはさまったような顔をした。ような気がした。
「菅野さん?」
「え? ああ、その、また明日ね、棚島さん」



