「大丈夫、私には夫がいるし」
菅野さんの中では、どうも笹山さんは信用に足らない人物らしい。事実、菅野さんは遠目でしか笹山さんを見たことがない。接客は私が全部承っていたからだ。
それが余計に菅野さんの興味を引いてしまったか……。
私は心の中でガックリと項垂れた。
そんな心情など一ミリもしらない菅野さんは、品定めする気満々で「ヤバそうなタイプだったらすぐ教えるから」と手まで握ってくる始末。
「で、その笹山さんはもうカフェで待ってるの?」
菅野さんは鼻息も荒く、今から戦にでも行くつもりなのかと誤解しそうになるレベルで気を張っている。その姿に、私は引き攣った笑いしか返せなかった。
ああ、これはもう断れない……。善意しかないから余計に断りにくいやつ……!
「……裏口で会おうって約束してるので」
「よっし、行きましょう!」
私は内心で笹山に頭を下げまくりながら、菅野さんの後ろ姿を追って足を早めた。



