「それで、英会話の練習に付き合ってもらうことになったってわけね」
次の日、私は仕事終わりに菅野さんから夕食に誘われたが、「笹山さんにこれから英語を習うことになりました」と素直に報告した。
菅野さんのことだから、下手に誤魔化してもすぐに追及されバレてしまうだろう。それなら正直に話したほうが余計な心労がなくていい。
私から笹山さんに英語を習うまでに至った経緯を聞いた菅野さんは、ジャケットを羽織りながら「笹山さんもやるわねぇ」と片頬を歪めた。
「勝手に人懐こい大型犬タイプだと思ってたけど、結構な策士ね」
「いやいや、そこのカフェで簡単に教わるだけですから」
私も着替えながらそう言うと、菅野さんは「きっとそこが笹山さんの狙いよ」と目を光らせた。
「まずカフェみたいなとこで気安い仲になって、それから自分の家に連れ込む算段よ、きっと」
「考えすぎですって」
「棚島さんは危機感がなさすぎよ」
菅野さんはロッカーを閉めると、トートバッグを肩にかけ私のほうに身体ごと向けた。目には力強い光が宿っている。
「その笹山さんて人、私もちゃんと話してみたいわ」
「えっ」



