あなたを抱きしめる、唯一の


 私は思考停止してしまった。

 “クセのある”お客様がやってきたわけではない。


「コニチワ」


 外国人のお客様だった。それだけだ。

 彫りの深い顔立ちに、浅黒い肌、ダークブラウンの巻き毛。さらに背は高く、割と筋肉質だった。

 お客様はにこやかに微笑んで滑らかに英語を話される。対して私の脳内には大嵐が訪れていた。


「あー……ウェルカムトゥつるばみ屋」


 それだけ必死に喉の奥から搾り出すと、お客様はますますにっこりして話し続ける。ダメだ、何もわからない。助けて店長……!

 視界の端に映る店長は、老夫婦のお客様方と話し込んでいる。さらに絶望的なことには、あのお二人は話が長いことで有名な常連様だった。

 もうチラシだかパンフレットだかを持ってきてほしいものを指差してもらうしかない。両方とも確かカウンターの下に……。


「エクスキューズミー」

「え?」


 聞き慣れた声がした、と思ったら、お客様の後ろから笹山さんが顔を出した。そのままお客様に向かって話し始める。

 最初は驚いていたお客様も、笹山さんの話にうんうんと相槌を打ったり、お菓子を指差して質問したりしていた。……いや英語は全然わからなかったし、感じた雰囲気からの憶測だけど。

 でも笹山さんの「イッツジャパニーズトラディショナルスイーツ」だけは聞き取れた。まるで昔からの友だちのように会話している。

 彼の口からネイティブのような英語がペラペラと出てくるたびに、私は身の置き場がなくなっていくような気がした。


「店員さん」

「っ、はい!」

「落雁と和三盆のセットが欲しいって」