今後は平常心を忘れずにいよう。そう決意した日だった。
菅野さんは「向こうも好きなんじゃないの?」と言ってくれるけど、私はそれでも付き合おうとは思えない。
真っ当な交際なんてわからないし、一人で生きていくつもりだから。
「ああ……もうそろそろなんで、失礼します」
「進展あったら絶対教えてね!」
菅野さんの目がクワッと見開かれ、そこから圧力ビームが私に突き刺さった。彼女の大きな目を縁取る、バッサバサのまつ毛が眩しい。
「ええ、もちろん、あれば」
それだけ言ってささっと休憩室を後にする。休んだ気が全然しない……。
菅野さんの、あの妙な押しの強さは困ってしまうときもあるが助かるときもある。クレーマーとか、そこまではいかないけど厄介なお客様とか、とにかくクセの強い方々が相手でも萎縮しない。
私なんかはすぐ固まってしまうのだが、彼女は凄みのある笑顔とハキハキした言動で圧をかけて黙らせてしまう。
私も同じように……とまでは言わないけど、せめて固まらないようにしないと。
私は本に載っていた押し物──もち米にみじん粉、砂糖を入れて押し固めたお菓子──をなんとなく思い出しながら、カウンターに戻った。



