背中は自然と丸まって、視界にはクリーム色の床ばかり。そこにポンと誰かが手を添えた。
「大丈夫、大丈夫、次やらなきゃいい」
「店長……」
私は潤みかける目を瞬きで誤魔化すと、お礼を伝えてから顔を上げて姿勢を正した。失敗を引きずっていては新しい失敗を呼び込んでこんしまうし、これから来てくださるお客様にも失礼だ。
「すいません、緑茶ください」
飲食スペースからは笹山さんの声が聞こえてきた。初めて出会ったときのような平坦な声に、やっぱり怒らせてしまったんじゃないかと不安がよぎる。
……不安が?
そこまで考えて、私は店員として一番やってはいけないことを自覚した。
お客様との距離が近過ぎる。
店員なのだから、お客様とは一定の距離を保つのは常識の中の常識だ。でも現状は? 笹山さんの笑顔が見られるようになって浮かれて、あまつさえかわいいだなんて考えた。
黒文字を落としてしまったのもそれが原因だ。一線を引いて、常に販売員としての意識を保ち続けるべきだったのに。



