もうすっかり慣れてしまったやり取りに、私は鼻歌でも歌いたい気分で紙製の小さなお盆に藤簾を乗せる。
この藤簾は藤の形をした練り切りで、上のほうは白く、下のほうにいくにつれて淡い紫色になる。グラデーションが美しい逸品だ。
私は黒文字を添えて、傷や汚れがないか最終チェックをする。うっかり素手で触れたり傷をつければ即座に破棄しなければならないからだ。
最終チェックを済ませると、併設されている飲食スペースへと藤簾を運ぶ。笹山さんはすでに椅子に座って文庫本を読んでいた。
この飲食スペースを挟んで反対側はお茶屋さんなのだが、このお茶屋さんとつるばみ屋は共同でこのスペースを管理していて、お客様が望めばここですぐにお菓子やお茶を楽しめるようになっている。ちょっとした甘味処のようなものだ。
「お待たせしました」
「ありがとう」
お盆を受け取ろうとした笹山さんの指が、私の手に触れる。
「あっ……!」
お盆が微かに揺れ、黒文字が軽い音を立てて落ちた。
「申し訳ございません! すぐに新しいものをお持ちします!」
心臓がバクバク鳴り始め、冷や汗が吹き出てきた。どうしよう、お菓子はテーブルに置いたまま黒文字だけ持っていけばいいんだっけ?



