それからというもの、笹山さんは毎日のようにつるばみ屋へ通ってくるようになった。
来ると必ず私に声をかけ、「このお菓子って何がモチーフなの?」「あのお菓子の原材料は?」と質問攻めにしてくるので、私としては一瞬たりとも気が抜けない。
本当にどうしようもないときは、沢木店長や菅野さんに頼って代わりに答えてもらう。そういった日は和菓子についての本を買って、一から勉強し直した。おかげで前よりずっと詳しくなれた……ような気がする。
もちろん、笹山さんが私のためにそうしてくれているわけじゃないのはわかっている。むしろ、なぜなぜ期の子どもとか、構ってほしがりの大型犬に似ているような気がする。
我ながら失礼な連想だとは思う。でも私がお菓子の味や知識について話していると、口角がゆるりと上がり目元が薄く色づくのだ。
ああもう、かわいい人!
私は心の中だけで身悶えして堪えている間に、笹山さんは練り切りの“藤簾”を指差して告げた。
「じゃあ、この練り切り一つ。こっちで食べるから」
「かしこまりました、少々お待ちください」



