「専務の顔は割れていらっしゃるんですから、程々にお願いしますよ?」

「大丈夫、私の変装は完璧ですからね」


 胸を張ってみせると、柴崎は「本当にお願いします」と念を押してきた。心配性というか神経質というか。

 まぁ無理もない。デパートのサイトに、俺の顔写真が笹栗泰明と記され載っている。だが、髪を整え眼鏡をしていない他所行きの写真だ。目が隠れそうな前髪や大きめの眼鏡、地味な私服に着替えれば家族以外には早々バレない。


「それよりも、これを秘書課の皆でおやつにでもどうぞ」

「ああ、つるばみ屋さんの栗饅頭ですね」


 柴崎の顔がパッと明るくなった。現金なやつめ。


「こっちはパティスリー・アンナのマロンクリームワッフル、こっちはクレオのインスタントコーヒー……」


 嬉しそうに確認していく柴崎は、ふと冷静な表情になって顔をこちらに向けた。


「ここら辺の接客が良かった、ということですね」

「ああ、買った店以外は及第点、それかもう少し努力してほしいところだな」

「では接客態度の改善について、資料を受け取り次第通達いたします」