だけど見掛け倒しの根性なしの私は。
 彼を見上げて瞳を見て、聞くことは出来なくて……


 ふたり揃って、同じ方向を見て話す。
 正面から向き合えない私達は、きっと公爵家ご自慢の薔薇を愛でながらお喋りをしているように見えているわね。


 ◇◇◇


「結果的には、あれがきっかけになったかもしれない。
 だけど、最初はルーカスを助けたくて、貸したんだ」


 夏の盛り、銀行でルーカスに会った、と彼は話し始めました。
 王都銀行での用事を終えて店を出ようとした時、カウンターで行員とやり取りをしているルーカスを見つけて。
 気軽に声をかけたら、彼は嫌そうな表情を見せた。


 行員との会話は聞こえていなかったのに、知られたくはなかったのだ、と気付いて、そのまま手を振って、待たせていた馬車に乗り込もうとしていたライオネルの手をつかんだのは、追いかけてきたルーカスだった。


「友人の為にお金が必要なんだ」


 自分名義の口座があるのに、まだ学生だから親の同意書がないと出金出来ない。
 お金にうるさい父親が同意書なんて書くわけがない。


 卒業してテディの元で働きだしたら、給料から返せるから。
 だから貸してくれないか?



 友人の為、という話が本当かわからなかったが、ライオネルはルーカスにお金を貸した。
 同じ様にテディに仕えていて、親同士も親しくしている。
 弟のような存在のルーカスに、高額な利子で他から借金などさせられない。


 ライオネルは一度だけかと思っていた。
 言われただけの金額を手渡した。
『ありがとう、助かった』と嬉しそうなルーカスの笑顔に、これでいいんだと自分を納得させた。



 だが、ルーカスが何度も借金を頼んでくるようになった。

 おかしい……と調べてみたら、婚約者以外の女とのデートやプレゼントに使っていた。