えーと、これは……?

 あの日、私はフェルフラン公国のお祖母様の所に行くからと、幼馴染みの皆に送別会を開いて貰っていた、のに。
 あれから1週間過ぎたけれど、私は出発していません。


 私は相変わらず『事故物件』のはず、なのに。
 この国の『最優良物件』のライオネル・グレイ・モンゴメリー小公爵様にエスコートされて、グレイ家のガーデンパーティーに出席しているのは……



『君に結婚を申し込むよ!
 だから、行くな!』


 送別会の日、遅刻してきたライオネルが……
 結婚を申し込む? 私に? 何で?
 申し込むと言われた私もだけど、その場に居た全員がそう思っていたよね……





「何を考えているの、エヴァ?」

「……」

「俺の事を考えてくれているなら、最高なんだけど?」


 そうね、ライ、貴方の事を考えているの。
 どうして私に結婚を申し込んだのか、なんて。
 ずーっと、貴方の事を考えてる。


 フェルフランのお祖母様に早馬を出したのは、お母様。
 直ぐに返事が来て、そんな事になっているのなら、こちらに来る必要はない、らしいです。



 宰相閣下の御嫡男が事故物件とまで呼ばれた娘に結婚を申し込んだのだ。
 その有難いお話を蹴るバカは何処にも居ない。


 今日もお迎えに来てくれたライオネルに、お母様が私を押し付けた。


 ……だけど、私は気付いてる。



「結婚を申し込む」と。
「だから行くな」と。
 ライオネルは確かに言ってくれたけれど。


「好き」も。
「愛してる」も。
 そんな甘い台詞は全然無かったもの。


 これ、ってつまり……
 政略婚約パート2、ってヤツなんじゃない!



「ちょっと待ってて」


 ずっと私の隣から離れないライオネルが友人に呼ばれて席を外せば、すかさず声をかけてくるご令嬢がいました。



「ご無沙汰しております。
 ……お元気かしら、と心配させていただいておりましたけれど。
 無用な事でしたわね?
 以前のご婚約者よりも素敵な殿方を捕まえられて」