「事故物件て、格下げて、何なの?」

「多分、現状では他のご令嬢より相場が安くなった女?
 一見、優良物件なのに、何でかな、安いのに誰も手を出さないな、と感じても、周りは敢えてその理由を教えてくれない女?
 自力で調べたら、ヤバい話が出るわ出るわの女?」



 ……この男、カイル・グリフィン・バーンズは。

 無遠慮なところを、男らしい。
 無神経なところを、明るくて爽やか、と。
 両足履き違えて大股で闊歩する男です。


 そんなデマを信じる人は居ない!と、否定出来ないのが辛い。
 こんな時、自分の交遊関係の狭さに改めて気付かされるわ。


 お茶席や夜会なんかで、私の良い噂をばーっと流して、男達のその誤解を解いてくれる女友達が居ない……



 いや、唯一の友達、エリィほど心強い味方はいない。
 エリィのおウチの影を使って、誰がそんなデマを流しているか、調べて貰う?

 いや、そしたらまた私は自分の力では何も出来ない女なんだって事を証明するだけ。


 乙女心は千々に乱れ、黙ってしまった私に、殊更カイルは明るい声を張り上げました。



「事故物件令嬢なんてな!
 言わしたいやつに言わせとけば、良いからなっ!」


 こんな近い距離でふたりしかいないんだから、叫ばなくていいよ。




「俺は事故物件どんと来い、って思ってるからなっ!」

「そりゃ、どうも」


 事故物件、事故物件て、連発しないでよ。
 どんと来い、って言ったよね。


 貴方がいつかおウチを買う時、事故物件じゃなかったら。
『嘘つき』を 3×10回、本当に言ってやるから。



 それにしても、この噂をエリィは知っているのかな。
 エリィのおウチ(公爵邸) は、王城とウチの邸の間にあるので、今日ここに来るまでにカイルが彼女のところに寄っていたら。


「もしかして、エリィに私が事故物件なんたらかんたら、話した?」

「先に寄ってきたからね、面白い話はない?って聞くからさ、話したよ?」


 ……悪気なんてひとつもないな、カイル。

 それを聞いたエリィの心境を思って、私は少しブルーになってるのに。
 貴方は気付いていないのね。


「い、今はまだ考えられないと思うけど、俺は……
 エヴァのことを……」