もしかしたら、になりますが。

 ルーカスは補填の為にミシェーラに頼んで、明日以降にドレスを売ることも考えていたのかもしれません。
 今宵一晩だけでも、愛するミシェーラを自分の色に染めて、彼女を飾り立ててあげたかったのかもしれません。


 それこそ、今更想像しても無駄、なのでしょうが。
 私達幼馴染みには、誰にも相談出来なくて、助けを求めることも出来ない。


 そんな彼を可哀想だと、兄達は『犯罪』を見て見ぬふりをした。
 今宵のパーティーが終わり、現実に戻ったときにルーカスに帰れる場所があるように、気付かないふりをして。


 ルーカスのお父様は財務大臣を罷免されるでしょう。
 ご自分から辞表を提出されたのではないので、退職扱いにはなりません。
 お兄様は財務省に残られるのか、わかりませんが……
 約束されていた将来は断たれた、と思います。


 ルーカスの横領金額自体は大したものではなかったかもしれませんが、その傷は大きく深いものでした。


 ◇◇◇


「領地で、心を入れ替えてがんばるらしい」


 後日、兄が教えてくれました。
 幼い頃からルーカスを見てきたテディや幼馴染み達。
 そして、お父様の財務大臣の人柄を知る多くの方々からの嘆願書もあり、ルーカスの沙汰は軽く済みました。



「ミシェーラとの、真実の愛はどうなったの?」

「そんなものは現実の前には消えたよ」


 ……あれから、父から教えられました。
 私との婚約は、幼いルーカスが望んでくれたものだった、と。
 だから、一時ミシェーラに気持ちが揺れても、彼は戻ってくると父は考えていたのだ、と。


 私から相談された時、その事を伝えればよかった、と父は悔やんでいましたが。



 いいえ、違う、それを伝えるのは婚約を結んだ最初にするべきでしょう。
 浮気されてから「実は」なんて、聞かされても。
 それこそ、もっと生理的に受け付けなくなる。


 ルーミシェが真実の愛で結ばれたカップルだと思えたから、私はこの1年をやり過ごせたのですから。