「早く行こ!あそこのラーメン屋さん人気なんでしょ?」

「確かに人気だけどまだ開店前だぞ。落ち着けよ」

二人は笑いながら車に乗り込み、家を出て行く。その姿を前は物陰から見ることしかできなかった。別人のようになってしまった花火に、ただ戸惑い、胸の中に虚しさが広がっていく。

(僕の隣では、あんな風に無邪気に笑うことはなかったのに……)

最初から花火の心は自分には向けられていなかった、厳しい現実が突き付けられる。前はスマホを取り出し、アルバムを開いた。そこには花火と出掛けた際に撮った写真が少ないながらもある。

それを迷うことなく、前は消していく。まるで最初から花火との思い出などなかったかのように。頰を涙が伝う中、一枚ずつ消していく。もう花火は戻って来ない。何もかもを捨て、生まれ変わったかのように幸せになった。

最後に前はポケットから写真を取り出す。恋など知らないまま、結婚の約束をしたあの時の写真だ。それを迷うことなく前は破いていく。

「さよなら、花火」

結ばれかけていた赤い糸を断ち切った初恋の人を、前は心の中から消した。