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後悔はしていない。していないけれど――。
ぽんぽんと肩を叩かれて現実に引き戻される。
「大丈夫?」
ハッとして顔を上げると紗空が心配そうに眉尻を下げて私を見ていた。
「ああ、ごめんごめん」
高鳴る鼓動を落ち着かせようと、ゆっくり息を吐く。
想い出に浸っていた間に、彼女は私が渡したプレゼントを開けていたようだ。箱は表面がフイルムになっていて、キラキラした緩衝材の中で横たわるグラスが見える。
紗空は「綺麗」と目を丸くして、さもプレゼントの話をしている雰囲気を装ってくれた。
「茉莉、ちょうどいい機会なんじゃない?」
「え? なにがちょうどいいの?」
「打ち明けるのよ」
ドキッと固まる私の腕を、紗空がぎゅっと掴む。
「ここで会ったのは運命かもしれないよ?」
運命という言葉に心臓が跳ねた。
大袈裟だよとは笑えない。この広い東京で友人を通して糸が繋がるなんて、もはや奇跡だと自分でも思う。
でも、だからって。
「い、いや無理。お願い紗空、子どもたちと、私がシングルマザーなのも彼には絶対に知られたくないの」
「茉莉……」
「お願い」
私があまりに真剣に訴えたせいか、彼女は戸惑いながら「わかった」と答えた。
「燎さんには大学の同窓生としか言ってないから心配ないわ。今後も双子ちゃんの話はしない」
燎さんとは彼女の夫、須(す)王(おう)須王燎さんだ。ふたりの結婚式と私の出産の時期が重なり出席していないので、燎さんとは今日が初対面になる。
「聞かれたら独身とだけ言っておくね」
「ありがとう紗空。助かる」と耳打ちすると、噂の旦那様がこちらに向かって来るのが見えた。
紗空の夫、須王燎さんはスラリと背が高く、年齢は自分達とそう変わらないのに大企業の重役らしい堂々とした風格がある。加えてすごいイケメンだ。正面に立つだけで圧倒され、緊張に顔が強張ってしまう。



