やっぱり寂しいとか、でもどうしても用事があるんだとか、ぶつぶつ言う彼に笑って、さよならをした。

 明日の準備もあるが、その前に済ませなきゃいけないことがある。

 子どもたちが寝たのを見計らって、母に電話をかけた。

 大福さんの旅館が義父の和菓子店の顧客というのが気になっている。断ったことで義父が母につらくあたるんじゃないかと、それだけが心配だった。

 でも母は明るい声で、答えてくれた。

【いいのよ。気にしないで】

「私が断ったことで嫌な思いをするんじゃない? お母さん大丈夫?」

【ごめんね。むしろ悩ませちゃって。お母さんの心配は必要ないわ。茉莉は自分と子どもたちのことだけを考えなさい】

 それからいくつか弟たちの話をして電話を切った。

 これで気兼ねなく航輝さんとの将来を考える準備は整った。もちろんハードルはまだいくつもあるから、結婚はまだ決められない。私がよくても神城家が受け入れてくれるかはわからないし、子どもたちにもどう話したらいいか考えなきゃいけない。

 それでも三年前のように逃げ隠れせず、向き合いたいと思う。

 臆病な心を捨てて、傷つくのを恐れずに。素直に。

 大きく息を吸って勇気を振り絞り拳を握る。

 ――義父から電話があったのは、それから間もなくだった。