吸い込まれそうな群青色の夜。薄雲が流れる空を、飛行機が飛んでいた。

ふいに後ろから彼は私を包みこんだ。

『実は俺、パイロットなんだ』

 エーゲ海で知り合ってから数か月。ごく普通の会社員だと言っていた彼の、本当の姿を私は知っている。

 だから驚きもせず、うなずいて、また空を見上げた。

『少し前に、空港で見かけたの』

 彼は空港の片隅で、CAと話していた。帽子を被りパイロットスーツを着て、右側から差し込む光を浴びていた彼は、輝やくばかりに素敵だった。

『なんだ。声をかけてくれればよかったのに』

 こともなげに笑った彼は、私の胸がチクリと痛んだのを知らない。

 どうしてパイロットだと隠したのかと、あの後泣いたことも、彼の眩しさに脚がすくんで動けなかったのも、言えなかった。

胸の中にそっと沈め、それでもいつか、笑って話せる日がくると信じていた。

『茉莉、俺はお前が好きだ。多分、お前が想像する以上にな』