「婚約はなしだ。子どもの頃の約束を盾に取るなら、弁護士を立てる」

「なにかと思えば、そんな話」

 言葉を遮り、顎を引いた麗華は皮肉な笑みを浮かべる。

「何度でも言う。俺はお前と結婚する気はない」

 麗華は目を合わせようとしない。

「ここまでだ。あとは弁護士と話してくれ」

 会計を済ませようとしてボーイを呼ぶと、麗華が慌てた。

「ちょ、ちょっと待ってよ」

 無視してクレジットカードをボーイに渡す。

「いいの? あなたのお兄さんはパパの会社にいるのよ?」

 麗華はにやりと口もとを歪める。

「だからなんだ」

 兄貴になにかするつもりなのか?

 動揺を諭させないよう、無表情の能面を貼りつけ、ボーイが戻ってきたところで席を立つ。

「もう終わりだ。君に付き合う理由はない」