鐘の音が、運命の人だって教えてくれた。

 八年くらい前、お友だちの家からの帰り道で、転んで泣いていたわたしを助けて起こしてくれた彼は、そのままわたしと手をつないで、家まで送り届けてくれた。

 年齢は、多分わたしよりちょっとだけ上。

 前だけをじっと見つめ、唇をきゅっと引き結んだ彼の横顔を、わたしは泣きじゃくりながらも時折見上げていた。

 口数は少なかったけど、わたしの歩調に合わせて歩いてくれたり、『大丈夫だよ』とでもいうようにぎゅっと握ってくれた、わたしよりも大きな手のぬくもりが、今でも忘れられずにいる。


 結局名前も言わずに帰ってしまって、どこの誰ともわからずじまい。

 だけど、彼のあの横顔を思い出すたびに、なぜか胸がほわほわしてあったかい気持ちでいっぱいになるの。

 初恋……と名の付くような感情ではなかったかもしれないけど、彼のことを、わたしはずっとヒーローだって思ってる。


 でももし、あれが『恋』だとしたら……わたし、二人の男の子を同時に好きになっちゃってるってこと?


「里沙、どうしよう。わたし、『ふしだらな女』になっちゃったかも」

 血の気の引いた顔で、里沙に訴える。

 そんなわたしを見て目をぱちくりさせていた里沙が、プハッと吹き出した。