「あんただろ、最近楪がご執心だっていう愛人は」 黒堂が、くいと私の顎を持ち上げ、顔を寄せる。 私はできる限りの抵抗をするように、ふいっと顔を逸らした。 「まさかこんな普通の女子高生だとはな。腑抜けてんな」 黒堂の言葉に合わせ、あちこちから複数の笑い声が重なる。 絶体絶命ってこういうことを言うんだろう。 心が恐怖に支配され、身体が言うことを利かなくなりそうになる。 でもだめ。 心を恐怖に乗っ取られたりなんてしたら。 こんな時こそ平常心を保たなきゃ……。