契約シンデレラ

ホテルで身支度を済ませ、圭史さんと共に向かったのは街から少し離れた郊外。
街の喧騒は感じられない緑豊かな場所に建てられは宮殿のような建物。
どうやらそこは貴族の離宮として造られた場所で、今は迎賓館として使われているらしい。

ホテルから乗ってきたリムジンが建物の正面に着くと、すぐにドアが開けられた。
そして降り立った瞬間、私は息をのんだ。

凄い、凄すぎる。

もちろん圭史さんと私が泊まっていたのも超が付くくらい豪華なホテルで、装飾も置かれている調度も全てが一流品だった。
しかし、ここはさらに雰囲気が違う。
先程までいたホテルが上流階級の世界なら、ここはさらに上の一言で言えば『選ばれし人の集う場所』間違っても私が迷い込むような場所ではない。

「どうした、行くよ」

車は降りたもののその場で動けなくなった私を、数歩前まで進んでいた圭史さんが振り返っている。

「あの・・・私」

こう見えて、小さいころから苦労をして育った自覚はある。
両親に愛されなかったわけではないが、裕福ではなかった。
そのせいばかりでもないけれど、度胸だけはあるつもりだった。
たとえどんな場所に行っても物怖じしないと思っていたのに・・・

「大丈夫、俺が付いているよ」
そっと肩に手を乗せ、圭史さんが耳元でささやく。

「ええ、そうですね」

こんな所まで来て怖気ずくなんて私らしくない。
こうなったら堂々としていよう。
私は小さく息を吐くと、姿勢を正し真っすぐに前を見た。