契約シンデレラ

ブブブ　ブブブ
「はい、龍ヶ崎です」

圭史さんが戻ってきてから、社長室の電話がひっきりなしに鳴っている。
それはおそらく何かトラブルがあったからで、元々帰社予定のない圭史さんが戻って来た理由は私のことを心配したためばかりでもなかったらしい。

「それについては現在調査中でして。え、犯人って・・・」

電話の対応している圭史さんの表情が険しい。

「ですから、情報漏洩については社内で対応もしておりますので」

え？

情報漏洩という言葉を聞いて、私は立ち上がった。
昨日聞いた個人情報漏洩事件を思い出したからだ。

「わかりました、詳細がわかり次第またご報告いたします」

やっと電話を切った圭史さんが、小さく肩を落とす。
そうしているうちに、また電話が鳴りだした。

終業時間まで鳴りやまない電話の対応に追われていた圭史さんは、その後打ち合わせのために社長室を出て行った。
私に「キリのいいところで帰りなさい」と声をかけて行ったくらいだから、時間のかかる打ち合わせなのだろう。そう思ったからこそ、私は何も聞けなかった。