契約シンデレラ

「はあー」
部屋を出て5分後、私は廊下に置かれていた長椅子に座り込んでいた。

電話は大阪市内の警察からで、要件は一文無しの父が保護されたから迎えに来れるかというものだった。
父自身が犯罪を犯していなかったのがせめてもの救いだが、それにしても情けない。
60を過ぎて定職にもつかず、夢を追っていると言えば聞こえがいいが絵が売れなければただのニートでしかない。
先程圭史さんのお父様のご立派な姿を見た後だけに、余計に落ち込んでしまった。

「どうした、大丈夫か?」
「ええ」

なかなか戻らない私を心配して、圭史さんが出てきてくれた。

「父が保護されたらしくて」
「それは大変じゃないか」
「いえ、大丈夫ですから」

今までだって何度もあったことだし、電話で父が元気なのも確認した。
急いで行く必要はないから、食事会が終わったら父の迎えに行かせてもらおうと思う。
状況によってはすぐに戻ってこられないかもしれないけれど仕方がないだろう。

「帰るぞ」
「え?」

私の手を引いて歩き出そうとする圭史さんを、私は見上げた。
気持ちはうれしいけれど、まだお母様たちもいらっしゃるのに途中で抜ける訳にはいかない。

「食事が終わってから行きますから、今は戻りましょう」

せっかくの食事会を私のせいで中止にはできない。
正直居心地のいい席ではないけれど、最後まではいようと思う。

「もう食事は終わっただろ。デザートが食べたいなら買ってやるから、行くぞ」
「でも・・・」