「恵美、今日はテレビでホームズの映画の再放送があるぞ」

「知ってる! 私も見るよ!」

「恵美はホームズに憧れたりする?」

「もちろん! ねぇねぇ涼介~、ホームズごっこ、してみる?」

恵美が急に立ち止まったので、俺も慌てて立ち止まる。
俺は振り返り、恵美と向かい合った。

「は? ホームズごっこって、何?」

「涼介、ちょっと手を出して」

俺は手を差し出す。
恵美は、俺の手を見ると、急に握ってきた。

「こ、こんなところで握手かよ。何なんだ?」

「……涼介、最近体育で鉄棒やっていたでしょ。
 それに、家庭科でお裁縫もしたんじゃない?」

むむむ……まったくその通りだ。
相変わらず恵美は鋭い。

恵美は急に視線をそらして手を放すと、どんどん先へと歩き始めた。
俺もついていく。

恵美は歩きながら推理を続けた。

「手のひらに豆ができていた。
 それでね、体育で鉄棒やっていたのかな~って思って。
 あとね、指先に小さい刺し傷があった。お裁縫で針が刺さったんじゃない?」

「握手するだけで、そこまで分かったのかよ!」

「ふふふ……ホームズはね、ワトスンと握手してすぐ、前歴を言い当てたのよ。だから、これがホームズごっこ。どう? 私って名探偵でしょ?」

「恵美って、そういうの好きだよな」

「うん。それでね、今、涼介と握手して分かったことが、もう一つあるんだ……」

「何?」

「それはね……明日この場所で教えてあげる!」

そう言うと、恵美は一人で走って帰ってしまった。

俺はその場に取り残された。

仕方ない……今日は一人で帰るとするか……
恵美と下校できないのは、なんだか寂しい。

俺は、さっきの恵美との握手のことを思い返していた。
恵美の手はとても温かかった。そして、柔らかかった。

恵美とは幼馴染で、幼い頃は二人で手をつないで遊んできたものだった。
しかし、この歳になって手をつなぐというのは、なんだかドキドキしてしまう。

俺の手、冷たくて嫌な感じとか与えていなかったかな?
そう考えると、なんだか不安になってきた。

家に帰った俺は、今日のことをもう一度考えてみた。

俺は恵美のことを、今まではただの幼馴染だと思ってきた。
けれど、今日、恵美に手を握られて、改めて思ったことがある。


俺は恵美のことが好きだ。


その思いを認めざるを得なかった。
明日、俺の思いを恵美に伝えよう。そう決心した。
あの名探偵恵美に告白するんだから、ちょっとした工夫が必要だろう。

俺は、告白の方法をいろいろと考えてみた。

前から薄々感じていたことなんだが、実は恵美も、俺のことが好きなんじゃないのかな。

多分……いや、絶対にそうだ。

恵美は俺の行動パターンを把握しているし、髪型や服装の乱れもすぐ気が付く。
それって、俺に興味があるから、だよな。

それともう一つ、前から気になっていたことがある。
学校が違うのに、ほとんど毎日、帰る時間が一緒になるということ。
恵美は、俺の帰宅時間の変動もすべて把握し、毎日、俺に会えるように時間を調整して下校しているのではないか?
……いや、それって自惚れが過ぎるのかな?

でも、名探偵恵美なら、やろうと思えばできるはず。

よし、イメージが湧いてきたぞ。
明日、名探偵恵美への告白はこんな感じでいこう。
俺は脳内で予行練習をしてみた。

俺は明日、恵美の真似をして指を振りながら、恵美にさっき考えた俺の推理を話し、
「恵美は俺のことが好きなんだろう」って言い当てる。
いつもは、俺が推理されている側だが、明日は俺が恵美の心を推理して当てるのだ!
そして、「俺も恵美が好きだ」と告白する。
よし! こういう流れでいこう!

俺は興奮してきた。
だが、こんなにうまくいくだろうか?
何か見落としていることはないだろうか?
不安は消えない。

俺は、眠れない夜を悶々と過ごし、眠たい朝を迎えた。