玄関のチャイムを鳴らしていたのは誰なのか。
モニターにも映らない。
鳴ってすぐ玄関を開けても誰もいない。
足型も取れない。
犯人は幽霊なのか?
恵美の答えは……
「ヤモリ」
え? 俺は拍子抜けした。

「ヤツデの葉っぱみたいな跡はね、ヤモリの足型。
 足に粉を付けた状態でボタンに触ったんだと思う。
 ヤモリは吸盤でもなくネバネバでもなく、ファンデルワールス力という力で壁にくっついて登るの。
 だから、足に粉がついていても壁を登れるの。
 でね、涼介の家の周りにはコオロギがいっぱいいるでしょ?
 それを食べにヤモリがやってきた。
 玄関には常夜灯があるから虫が集まりやすい。
 ヤモリが玄関の壁を登って、足がチャイムのボタンに触れて鳴らしてしまったというわけ」

メールの着信音が鳴った。
添付された写真にはヤモリが写っている。

「今メール届いたでしょ? 写真のヤモリの足を見てみて」

画像をピンチアウトして見てみると、ヤモリの手足や腹部に白い粉が付いている。

「はい、これが犯人でした。
 でもね、ヤモリは漢字で“家守”って書くこともあるから、基本的には縁起のいい生き物よ。いろんな虫を食べてくれるし」

「……恵美ってさ、ヤモリは苦手だろ?」

「あは、バレた?」

「写真撮る時、青ざめていたからな」

「ふふふ……」

名探偵でもヤモリは苦手なんだな。

「で、チャイムを鳴らされないようにするには、どうしたらいい?」

「ヤモリは爬虫類だから、ヘビ除けのスプレーが効くよ」

なるほど。さっそく実践してみた。

それからは、無人のチャイムは鳴らなくなった。
さすがは名探偵恵美だ。


* * *


そして、月日は流れた。
俺と恵美が下校途中で一緒になるのも相変わらずだ。
恵美との会話は、たわいもないものが多い。

そんなある日の帰り道……