大樹はおしぼりを雅臣に渡した。
「え、だっていつも話してたじゃん、シンガポールで」
「それは…普通本人には話さないだろう」
「あー、そっか(笑)」
「早く戻れよ」
「また、聞かせろよな、じゃあ、怜花さん、ゆっくりしていって」
怜花は頷いた。
「今思い出した事がある…」
「うん?」
「私って臣(おみ)くんて呼んでたよね?」
「うん、雅臣って言いにくいから臣くんて呼んでくれてた」
はぁ〜と大きく息をついた。
「普通に喋って欲しい、やっと僕の記憶が少し怜ちゃんの中に戻ってきたみたいだ、この前兄貴の事だけ名前で呼んでたのすげー嫌だった」
「ごめん」
「怜ちゃんの思い出の中に僕はいないのかなって…」
「ずっと会ってなかったもの、だから徐々に記憶がよみがえって来てるの、臣くん、思い出した」
アルコールも入っていたのもあって怜花はテンションが上がっていたのだ。
「その、怜ちゃんは今は彼氏とかいる?」
「いないよー、私本当に出会いがなくて…」
「美人なのに」
「本が好きで図書館ばっかり行ってたしメガネかけて地味に過ごしていたからね」



