ビターなフェロモン (短)


「桃子、どうしたの?」

「あ、えっと。ほら、蓮人くんケガしたのに、いっぱい動けてすごいなーって」

「……蓮人を見てたんだね」

「え?」

「ううん、なんでもないよ」


皐月くんは眉を下げ、ニコリと笑った。

それは、さっき蓮人くんが浮かべた笑みととてもよく似ていて……寂しそうだった。


「ねぇ桃子。学校で俺が〝伝えたいことがある〟って言ったでしょ?」

「う、うん……」

「あれね、あれは……」


皐月くんが口を閉じると、傘に雨がぶつかる音しかしなくて。

昼から勢いを増した大雨は何かを訴えかけるように、傘の下にいる私たちを激しくノックする。


「……あのさ。俺ね、桃子のことが」

「えっ、」


驚いた私と、そんな私を見て目を開いた皐月くんの瞳がぶつかる。

その勢いは、まるで激しい音を立てている傘と雨粒のようで――そして雨粒になったのは、皐月くんの方だった。