となりの初恋

良いところまで見終えて、泣きそうになっていると遠くで戸が開く音がした。


イヤホンをしていたから遠くに聞こえただけで、実際はすぐそこのドア。
顔は携帯の方を向いたまま、左耳だけイヤホンを外した。
下ろしている髪で右のイヤホンを隠してパソコンのマウスに触れる。


あたかも仕事をしているような雰囲気を醸し出し、来客の方に顔を向けた。


図書館に入ってきた人物は、予想外すぎる人だった。


「どーも」


明るい茶髪と同じような色のカーディガンを着て、鞄を肩にかけた櫻井海斗。
彼は私がいるカウンター近くのソファに鞄を投げて、本の背表紙に手をかける。


「ねぇ、図書委員さん。何かおすすめとかあります?」
「おすすめ、ですか?図書委員で今推してるのはそこにあります」


仕方がないから右耳のイヤホンも取って、先週作ったばかりのコーナーの方に歩いて行く。


「こっちは恋愛小説です。もう一個の方はなんて言えば良いんですかね、言葉にするのが難しいというか」