となりの初恋

櫻井海斗は二冊の本を手に取り、ぱらぱらとページをめくる。
その動きはどことなくぎこちない。


「本、苦手なんですか?」
「……なんで分かったの。てか、敬語じゃなくて良いって」
「ページをめくるのに慣れてない感じがしたし、何より表情。しかめっ面してた」


彼は本を閉じるとソファに腰掛け、わしゃわしゃと頭をかいた。


「すご、よく人のこと見てるんだな」
「それしか出来ることないので」


そう吐き捨ててカウンターに戻った。
動画を流したままになっていた携帯に視線を移す。
あ、好きなところ見逃した。あとで巻き戻して見返そう。


「高橋さん」


ソファの方から身を乗り出して、カウンターに顎を乗せながら私の名前を呼んだ。
キーボードに乗せかけていた手を引っ込めて、櫻井海斗の方を向く。


「なんですか?じゃなくて、何?」
「今日言ってたよね、俺のことどうも思ってないって」


口を開いたと思ったらそんなことか。