“明日空いてる?”
“空いてるよ"
“飲みに行かね?”
“いいよ”
"了解!また連絡する”
3月に入り、繁忙期で仕事が忙しくなってきた頃。
岩本から飲みの誘いがきた。
咲と3人のグループLINEではなく、個人LINEに。
なんで、2人なんだろう。
何かあったり…?
つい心が浮き足立っちゃうけど、『ただの飲みだから』と自分に言い聞かせる。
とりあえず定時で上がれるように、仕事終わらせないと!
よしっと気合を入れて仕事に励んだ。
んだけど…。
「やばい、終わらない…」
“ごめん、もう少しかかりそう”
定時になっても終わる気配がなく、慌てて岩本にLINEを入れる。
必死にパソコンと向き合ってると、スマホがブブッと音を立てた。
“終わったから、待ってんねー”
“ごめんね、超特急で終わらせる!”
“ファイト!”
それからとにかく集中して、先輩にも助けてもらい、なんとか1時間は経たないうちに終えられた。
“終わった!”
“お疲れ!いつもの店で待ってるよー"
岩本の返信を見て、急いで帰る準備をして会社を出る。
3人で飲みに行く時の、いつものお決まりの居酒屋。
ガヤガヤうるさすぎず、ちょうど良い混み具合で、私たちのお気に入りのお店だ。
お店に着き、入り口で岩本の姿を探すと、奥の方ですっと手が上がった。
「お疲れ様!ごめん遅くなって」
「お疲れ〜。先に始めちゃってるよ」
ビールのジョッキを持ち上げて、グビッと飲み干す岩本。
「それ何杯目?」
「まだ一杯目だよ。成瀬、ピーチウーロンでいい?」
「うん、ありがと」
私がコートを脱ぐ間に、二杯目のレモンサワーと一緒に私の分も頼んでくれる。
「最近、残業多いの?」
「んーまぁ、ぼちぼちかな」
「そうなんだ」
「繁忙期だからね、しょうがないよ」
ぼやきながら、メニューに目を通す。
「何食べよっかなー」
テーブルの上を見た感じ、まだお通しと枝豆しかない。
チーズの3種盛りは絶対でしょ、あとは…。
「お待たせしましたー」
あ、飲み物きたきた。
「レモンサワーとピーチウーロンと、」
飲み物で終わるかと思いきや、テーブルにもう一つ置かれた。
「チーズの3種盛りでーす」
え!
パッと岩本を見る。
「チーズ!」
「食べるでしょ?」
「食べる!頼んでくれてたの?」
「まぁな。そんくらいお見通しなんで」
岩本が自慢げに言った。
嬉しい。
私がいつも食べてるの覚えてくれてて、来る前に頼んでくれてたってことでしょ。
ちょっと……
キュンとしちゃったじゃない。
たまにこういうとこあるの、ほんとずるい。
「ありがとう」
「ん。ま、いーから、乾杯しようぜ」
照れ臭くなったのか、ぶっきらぼうに「早く」と乾杯を促す岩本。
私は胸のときめきを隠して、岩本のグラスに自分のグラスをコツンとぶつけた。