〇海斗の部屋(朝)
寝袋で寝ているましろ。スマホのアラームで起床。
ボサボサ頭で目をこすって、トントンと腰をたたく。

ましろ「う……体いた……」


〇橘家リビング(朝)
制服に着がえてリビングに行くましろ。

ましろ「おはようございます~」
橘母「あらましろちゃんおはよう。あら、少し顔色悪いわね。大丈夫?」

橘母の言葉で朝食をとっていた海斗顔をあげてましろを見る。

ましろ「大丈夫です。テスト勉強をしてたから」
橘母「ムリしすぎちゃだめよ? ほら、たくさん食べて」
ましろ「いただきます」

朝食を食べるましろの顔をじーっと見る海斗。
さすがに気づくましろ。

ましろ「どうしたの?」
海斗「クマ。げっそりしてる」
ましろ「コンシーラーで隠したんだけど。目立つ?」
海斗「だいぶ」
ましろ「もうちょっと塗ったほうがいいかな」

食べながら呟くましろ。


〇橘家洗面台
鏡を見ながらクマ隠しをするましろ。
海斗が後ろからやってくる。

海斗「そろそろ行くぞ」
ましろ「ちょっと待って」

海斗がましろの真後ろにたって、鏡のましろを凝視する。

ましろ「な、なに?」
海斗「寝れてないのか?」
ましろ「勉強がね」
海斗「ふぅん」

ジロジロとましろを見る海斗。

海斗「学校休む?」
ましろ「え⁉ なんで? 行くよ」
海斗「しんどかったら保健室行けよ」


〇橘家玄関

海斗「傘持ってるか?」
ましろ「折りたたみがあるよ」

傘立てから黒い傘をとる海斗。
ましろと海斗そろって家をでる。

ましろ・海斗「いってきます」


〇学校、教室(昼休み)
学食を使っているましろと友だち。

友だち「ましろ~。あんた今日顔色悪いけど、平気? 明日休んだら?」
ましろ「え⁉ 大丈夫だよ。そんなにひどい顔してる?」
友だち「かなり」

自分の顔を擦るましろ。

友だち「次体育じゃん。見学したら?」
ましろ「大丈夫大丈夫。せっかくの体動かす機会なんだし、どーんとやらなきゃね」


〇体育館
男子バスケットボール、女子バレーボール。
バレーボールの球が額に命中するましろ。
そのままバタンッと後ろにたおれる。

女子「きゃー! 里見さん大丈夫⁉」
女子「せんせー! ましろちゃんが!」
ましろの友だち「ちょっとましろ! 平気⁉」

ましろを抱き起すましろ友人。ましろ目を回している。
人だかりのなかを割ってくる海斗。

海斗「ちょっとどいて」

クラスメイトたちがどよめくなか、膝をついて、ましろの顔をのぞきこむ。

海斗「意識あるか?」
ましろ「う……っまわってる」

海斗、ましろをひょいっと抱える。お姫様だっこ。
あんぐりと凝視するクラスメイトたち。

海斗「こいつ、保健室に連れてくから」

ましろを抱えてとっとと体育館を出る海斗。


〇保健室(放課後)
保健室のベッドの上で目を覚ますましろ。

ましろ「あれ……? ここ……」
海斗「起きたか?」

ましろの枕元でまるい椅子に座って参考書を読んでいた海斗。
飛び起きるましろ。

ましろ「え⁉ 海斗くん⁉ 私、なにして」
海斗「バレーボールの球が激突して倒れた」
ましろ「え!」

かぁッと顔を赤くするましろ。

ましろ「うわー! 穴があったら入りたい!」

頭を抱えるましろを冷たく見る海斗。

海斗「原因は寝不足」
ましろ「え?」

参考書をとじて、ましろの寝ているベッドに膝をのせて、ましろの頬に片手をのばす海斗。

海斗「俺のベッド、そんなに使いたくない?」
ましろ「え?」
海斗「あんたまだ寝袋で寝てるだろ」
ましろ「いや、それは……まぁ」

視線を泳がせるましろ。

海斗「気づいてないかもだけど、しょっちゅう腰叩いてた」
ましろ「え! やだ、恥ずかしい」
海斗「床で寝てるから寝不足になるし、体も痛めるんだろ」
海斗「保健室のベッドだとスヤスだったからな」
ましろ「あ! 寝顔見た⁉」
海斗「見た」

ましろ、布団をひきあげて、顔を隠す。

ましろ「体育の前にもどりたい。絶対見学するのに」
海斗「もうとっくに放課後。あきらめろ」

ましろ、顔をあげる。

ましろ「待っててくれたの?」
海斗「倒れたやつをひとりで帰らせるほど腐ってない」

ましろ、笑顔を見せる。

ましろ「ありがとう、海斗くん」

ましろ「今何時? 保健室の先生は?」
海斗「17時過ぎ。保険医は会議があるって出て行った。起きたら帰っていいってさ」
ましろ「そっか。救急車とか呼ばれなくてよかった」

ほっとするましろに、海斗が冷たい眼差しを向ける。

海斗「体育だったからいいが、線路とか、階段とかで倒れた可能性だってあるんだからな。自覚しろ」



〇海斗の部屋
寝袋の上でゴロゴロしてるましろ。
ノックもなく扉があいて、ギョッとする。

ましろ「え! 海斗くん⁉ どうしたの? 参考書?」

海斗、不機嫌そうにましろを見る。
扉を閉めて、起きあがったましろにずんずん近づいてくる。
そして、しゃがみこんで、ましろにグッと顔を近づけると鋭い眼光で睨む。

海斗「いつまでそうしてんだよ。今日なんで倒れたのか、わかってないのか?」
ましろ「え、な、なにが」

海斗、ましろを無理やり抱き上げる。

ましろ「うわ⁉ ちょっと、なに」

ボスンっと、ベッドの上に落とされる。
起き上がろうとするましろを阻止するように、上から覆いかぶさる海斗。

ましろ「海斗くん?」

ジッと近距離で見つめ合うましろと海斗。
海斗がじろっとましろを睨み、

海斗「寝ろ」
ましろ「へ?」

布団を無理やりましろにかける。

ましろ「え、え、なに?」
海斗「男のベッドが嫌なのもわかるが、寝ろ」
ましろ「ええ? なんの話」
海斗「一応シーツとか全部変えてあるし、そんな臭くもない……はず」

海斗はちょっと自信がなさそうに布団の匂いを嗅ぐ。
ましろはかぁっと顔を赤くする。

ましろ(いや、すっごくいい匂いするんですけど!)

ベッドに転がるましろを囲いこむように、両手をついてジッと見下ろす海斗。

海斗「部屋にあるものをかってに触るなって言ったことは、取り消す」
ましろ「え?」
海斗「ベッド使うように部屋譲ったのに、いつまで頑固つらぬいてるんだよ」

ましろは混乱する。

ましろ「海斗くんこそ、かってにベッド使われたら不快じゃないの?」
海斗「は? いや、そもそも了承しただろ」
ましろ「でもあれは、おばさまに言われてしかたなくだし」
ましろ「居候させてもらえてるだけ、ありがたいから」

海斗「じゃあなに? 俺のものなんか汚くて使えるかって拒否してたわけじゃないのか?」
ましろ「ええ⁉ 海斗くんのが汚い⁉」
ましろ「ファンの子たちに失礼だよ!」
ましろ「海斗くんの部屋きれいだし」

海斗が疲れたようにため息をついて、ましろにのしかかってくる。

ましろ「ちょっと!」
海斗「気ぃぬけた」

あまりの近さにドキドキするましろ。

ましろ「重いよ」
海斗「加齢臭がって言われる父さんの気持ちがわかった」

ましろ、思わず笑う。

ましろ「なにそれ。海斗くんいい匂いするのに?」

海斗が少し身を起こす。
押し倒したような形でまた見つめ合い、固まる海斗。

ましろ「海斗くん?」

ましろにエフェクトがかかって見える海斗。
後ろに飛びのくようにして距離をとる。

海斗「悪い」
ましろ「え? うん。大丈夫。心配してくれたんだよね。ごめんね」
海斗「ベッド、使ってくれていいから」
ましろ「うーん。じゃあ、そうしようかな」

うなずいた、ましろ、ハッとする。

ましろ「出て行くときに、新しいベッド買うね。お母さんにお願いしとくから! ベッド代残しておいてって」

海斗「いいよ。じゃあ、またあとで」

バタンっと部屋を出ていく海斗。
ましろは顔を青くする。

ましろ(迷惑かけすぎて、怒ってる⁉)

一方海斗。
扉に背を預けて、片手で顔を覆っている。顔は耳まで真っ赤。思い出しているのは押し倒したシーンのましろ。

海斗「なんか、やべぇ」