〇橘家・玄関(朝)
海斗とましろ一緒に登校するために玄関で靴をはいている。

ましろ・海斗「いってきます」


〇電車のなか(朝の満員)
ぎゅうぎゅうになりながら電車に乗っている。

海斗「大丈夫か?」
ましろ「なんとか」

目の前に海斗の白いワイシャツ。

ましろ(どうしよう)
ましろ(さりげなく守ってくれてるのがわかるから、緊張する!)

視線を泳がせたましろの耳元で、海斗がささやく。

海斗「帰りは? 駅待ち合わせでいいか?」

ましろぎょっとする。

ましろ「え⁉︎ 海斗くん部活は?」
海斗「テスト週間だから休み」
ましろ「テスト……!」

青ざめるましろと、やれやれと肩をすくめる海斗。

海斗「忘れてたんだな」

ましろ(最近勉強ついていくのギリギリなんだよね……!)

ましろ「あの、私図書館行って勉強するから、先帰ってていいよ」
海斗「なら、一緒に勉強するか?」
ましろ「え」
海斗「多少なら教えられる」

ましろ、ハッとする。
海斗のまわりに、キラキラしたオーラの幻覚。まぶしそうに手で海斗を隠す。疑問符の海斗。

ましろ(そうだった)
ましろ(海斗くん、学年一位!)

ましろ「う……。ご、ご迷惑でなければ、お願いしたく候」

海斗、おかしそうに笑う。

海斗「なんだそれ。迷惑だったら提案しないし、飯作ってくれる礼」

ましろ(ただのごはんが塾代に化た気分!)


◯駅構内
満員電車を無事に降りたましろと海斗。

海斗「それじゃ、またあとで」

約束どおりさっさと歩いていく海斗。
駅の椅子に座って少し待つましろ。スマホの時間を見る。

ましろ(少し早い時間にしたけど、海斗くん迷惑じゃなかったかな?)

五分くらいあけて、ましろも歩き出す。


◯学校・教室(授業中)
数学の教科書を見ながら頭を抱えるましろ。
板書される数式は意味不明に見える。

ましろ(全然わからない。やばい!)

チャイムが鳴って授業が終わる。

数学教室「今日やったところはテストに出すからなー。予習しておけよ」
ましろ(ひぃー。どうしよう。なんにもわからなかった)

机に突っ伏して灰になってるましろ。
そんなましろを横目に見てる海斗。
海斗の席の近くに女子たちが集まってくる。

クラスの女子A「海斗〜。ねぇ、今日一緒に勉強しない?」
クラスの女子B「今日から部活休みでしょー? ほら、裕二たちも一緒に」

それを聞いてた海斗の友だち裕二が(前の席)、教科書片手に首をかしげた。

海斗の友だち裕二「海斗っていつも一人で勉強してね? だれかとやってるイメージない」
女子A「え〜、いいじゃん。たまには」

それを聞き耳立てているましろ。
心の中で動揺する。

ましろ(海斗くん、一人で勉強するタイプなんだ……!)


◯教室(帰りのHR)
スマホが震えたのに気づいて、こっそり見るましろ。

海斗メッセージ『図書館って学校?』

ましろ、担任の様子をうかがいつつ、カバンで隠してメッセージを打つ。

ましろメッセージ『そのつもりだったけど、海斗くん、帰って勉強してもいいよ』

海斗メッセージ『ちゃんと教える。てか、普通に家でやらないか?』

ましろ、メッセージを見て悩む。
チラリと海斗のほうを見ると目があった。海斗がスマホを操作して、またましろのスマホが震える。

海斗メッセージ『駅の一番先頭の車両』
海斗メッセージ『そこにくる生徒今のところ見たことない』

ましろ熟考する。
さっきの海斗は一人で勉強するといってたシーンを思い出す。

ましろ(海斗くん、家のほうが集中できるのかも)

ましろ、メッセージの返事を打つ。

ましろメッセージ『わかった。少しゆっくり行くけどいい?』
海斗メッセージ『待ってる』


◯駅のホーム
キョロキョロと周囲を気にかけつつ、電車の先頭車両に向かうましろ。
やがて、ホームの柱に寄りかかっている海斗を見つける。

ましろ「海斗くん」

気づいた海斗が軽く片手をあげる。

海斗「教科書持ってきたか?」
ましろ「とりあえず5科目持ってきた」
海斗「貸して。重いだろ」
ましろ「え⁉︎ いいよ、海斗くんだって重いでしょ」

海斗、ニヤッと悪い顔で笑って、ましろにカバンを渡す。
ましろ、全く重くないカバンを何度もふる。

海斗「ましろが持ってくると思ったからおいてきた」
ましろ「な! ふりょー」
海斗「はいはい。ほら、カバン」
ましろ「本当に重いのに」
海斗「だからだよ」

ましろのカバンを奪い取った海斗が肩にかける。電車がやってきて、二人で乗り込む。


◯橘家リビング
数学の教科書とノートが広げられている。
隣同士で座っているましろと海斗。
二人以外は不在。

海斗「ここ? わかんないの」
ましろ「ここというか、けっこう前からです……」

ましろは体をきゅっと小さくする。
海斗がましろのノートをのぞきこむ。

海斗「問題、ほぼ間違ってる」
ましろ「最近ついてけなくて」
海斗「まぁ、ウチ進学校だしな。超がつく」
海斗「家が近いなんて理由で来るヤツは、めずらしいんじゃないか?」
ましろ「うう……」

海斗、教科書とましろのノートをパラパラ見て、問題集をトンと指差す。

海斗「とりあえずここ」
ましろ「かなり前! 中間テストでやったとこ!」
海斗「中間はできたのか?」

ましろ、ははっと頭をかいて、問題集に取りかかる。
しばらくして、ましろは遠慮気味に海斗と腕をペンで突っつく。

ましろ「海斗くん、ここ」
海斗「ん。あぁ、そこは……」

しばらく集中して勉強。

ましろ「海斗くん、勉強は一人でやりたい派じゃないの?」
海斗「は? なんだそれ」
ましろ「教室で話してたの聞こえちゃって……」
海斗「単に一人だと集中できるってだけ」

ましろ、ザックリ言葉に刺される。

ましろ「うっ。ごめんなさい。今からでも別々で勉強する?」
海斗「別にいいって。ましろの勉強見るついでに自分の勉強してる感じだから」
海斗「優先順位が逆」

なんでもなさそうに言われ、ましろ、ドキンッと心臓が高鳴る。

ましろ「そ、そっか。じゃあ、いいか……」

勉強を再開するけど落ち着かないましろ。チラッと横を見ると、綺麗な顔面が。

ましろ(うっわ、すごい。まつ毛長い)
ましろ(肌もすべすべだ)
ましろ(くっきり二重だし、鼻高いし、神様って不公平!)

海斗の目玉がふいにましろのほうを向く。海斗をじろじろ見てたましろはドキッと目を泳がせる。

海斗「なに? わからない?」
ましろ「だ、大丈夫」

ましろ(ちっともすすんでないし)

テキストに向き直るがすぐに頭を抱えるましろ。
海斗がグッと身をのり出すようにましろのテキストをのぞきこんでくる。

海斗「どこ?」

ましろ驚くが、おそるおそる問題を指さす。

ましろ「わっ⁉ こ、ここです」
海斗「あぁ、ここはこっちの公式使って」
海斗「あとこっちは応用だから」
ましろ「なるほど」

スラスラと文字をノートに走らせる海斗。
真剣に見るましろ。
自然と肩がくっついているが二人とも気になっていない様子。

ましろ「わかったかも! 海斗くん教えるのすっごく上手だね」

パッと海斗のほうを向いたましろは、距離の近さにと驚く。海斗も距離に気づいたようで目をまんまるにしてましろを見下ろしている。

海斗「わ、悪い」
ましろ「あ、いえ、私も、夢中になってて」

距離をとる二人。海斗は頬杖をついて反対方向を向いているが、顔がほんのり赤く染まっている。
ましろは赤い顔を隠すようにうつむいているのでそれに気づいていない。

照れ臭いようん気まずい空気にそわそわしていたましろは、そろそろ夕食の時間だと気づく。

ましろ「あ! 私、そろそろごはん作るね」

エプロンをして、髪を結ぶましろ。

海斗「今日もましろが? 母さん甘えすぎじゃね?」
ましろ「おばさま遅くなるみたい」
海斗「ったく。テストがあるって伝えておく」
ましろ「うーん。たしかにちょっとヤバいから」

チラッと問題集を見るましろ。

ましろ「しばらく料理はおやすみにしようかな」

言いながら手早く料理するましろ。
自分の勉強をしてた海斗がいい匂いに手を止める。

海斗「なに作ってんの?」
ましろ「今日はからあげ!」
ましろ「それから、スープと、サラダと、餃子の皮で作るラビオリ!」

海斗がのぞきにくる。

海斗「うまそう。一個つまんでいい?」
ましろ「うーん。勉強教えてくれたお礼ね。内緒だよ」
海斗「さんきゅ」

からあげをひとつ口に放りこむ海斗。

海斗「うまっ!」

そこに悠人が帰ってくる。
ましろが料理をならべているのを見て、感嘆の声を上げる。

悠人「すごいましろちゃん」

悠人、ましろの肩を抱いて、流れるようにましろの頬にキス。
ましろ、きょとんとする。キスされた頬をおさえる。
海斗が悠人の胸倉をつかむ。キレている。

海斗「おまえ! 預かってる子に手を出すな!」
悠人「あはは〜。こんなのただのスキンシップだよ。うぶだなぁ、海斗は」
海斗「なっ、てめぇ、悠人!」

ましろ(ごはんよそっちゃお)