〇海斗の部屋(朝)

ノックする音が部屋に響く。

ましろ「うん……」

寝袋のまま、ゴロッと床を転がるましろ。

海斗「おーい。里見。俺、制服部屋にあるんだわ。悪いけどあけてくんね?」

ハッと目を開くましろ。立ち上がろうとして、寝袋でうまくいかず、コケる。

ましろ「うわっ」

大きな音。

海斗「大丈夫か?」

ましろ「だ、大丈夫です……」

ましろ、ボロボロになりながら扉をあける。

ましろ「ご、ごめんなさい」

海斗「悪いな」

海斗、部屋に入って制服を手にとる。
ましろ、時計を見る。朝の6時半。けっこう早い。

ましろ「海斗くん朝早いね」
ましろ「私、こんなに早く起きたの久しぶり」

あくびをするましろ。
海斗、片眉をあげる。

海斗「ウチから学校まで、けっこう遠いぞ」

ましろ「え!」

海斗「電車で約45分。歩く時間入れたら1時間はかかるか」

ましろ、バッと時計を見る。
まだ何の準備もしていない、ボサボサ頭。
海斗がニヤッと笑って、出て行きざまに、ぴょんっと立っていたましろの寝ぐせを指で弾く。

海斗「寝ぐせ。間に合うのか?」

バタンッと扉がしまる。
ましろ、かーっと顔を赤らめて髪を両手でおさえる。

ましろ(寝起きのひどい顔、見られた!)


〇橘家リビング

リビングにやってくるましろ。

ましろ「おはようございます!」

お茶をいれていた橘母がましろを席に促す。

橘母「あら~、ましろちゃんおはよう。お口に合うといいのだけれど」

ましろ「わぁ! おいしそう! いただきます!」

おいしいおいしいと食べ進めるましろ。
海斗がガタっと席を立つ。

海斗「じゃー、俺、そろそろ行くから」
ましろ「え!」

ましろ、もうそんな時間なのかと時計をチェック。
7時20分くらい。

橘母「こら、海斗。ましろちゃんと同じ学校でしょう。ちゃんと連れて行ってあげなさい」

迷惑そうに振り返る海斗。
ましろ慌てて首を横にふる。

ましろ「いえ! おかまいなく。ルート検索でちゃんと行きますし」
橘母「あらそう? まぁこんな愛想の悪い男と歩くのは恥ずかしいかしら?」

ましろ、心のなかで仏になる。

ましろ(こんなキラキラ男子と歩くのは恥ずかしいです……おばさま)

海斗が出て行って、ましろは朝食を食べる。



〇学校、教室(SHR)
担任が出席をとっている。
窓際の後ろの海斗。チラッと右を見て数個離れた空席を確認する。

担任「里見ー。里見はいないのか」
担任「里見は欠席……」

出席簿にチェックをつける担任。
海斗、ぎゅっと眉を寄せる。
そのとき、前の教室のドアが勢いよくひらく。

ましろ「すみません遅れました!」

ましろが教室に入ってくる。
担任が出席簿を書き換える。

担任「里見は遅刻、っと。バツとして放課後先生の手伝い」

ましろ「はい……」

ガックリ肩を落として、自分の席に向かうましろ。
バチッと、海斗と目が合う。
ましろへらっと笑って自分の席に座る。
不機嫌そうな海斗。


〇教室(休み時間)

ましろの友人「ちょっとましろ~。どうしたの遅刻なんてめずしい」
ましろ「あ~。ちょっとのんびりしすぎてて」
友人「寝坊?」
ましろ「それもある。明日からちゃんと起きなきゃ」

ましろぐったりとテーブルに突っ伏す。
と、机に影ができる。
だれかの腕が。

海斗「おい」

ピシっと固まるましろ。
突然の大事件に固まるましろの友人。

海斗「ちょっとこっち」
ましろ「え、え? えっ⁉」

乱暴に腕をつかまれ、教室の外に連れ出される。
ましろたちが出た後に教室では悲鳴。

クラスメイト「どうして橘くんが⁉」
クラスメイト「まさか、告白⁉」
クラスメイト「いやぁああああ!」


ましろ(これはまずいことになったかも)


〇校舎裏

尋問されるましろ。
壁に手をついて逃げ道を塞ぐ海斗。

海斗「どうして遅刻した?」
ましろ「え⁉ いや、のんびりしてて……」
海斗「あの時間なら飯食っても間に合ったはず」
ましろ「だからのんびり食べてたら……」

ましろ冷や汗だらだら。

ましろ(距離近くない⁉)

海斗、すっと目を細める。

海斗「迷ったのか?」
ましろ「いやいやそんなまさか」
海斗「乗り換え複雑だったのを電車乗ってから思い出した」

ましろ、視線を横にそらす。

海斗「悪かったな」

海斗、壁から手をはなしてすこし距離をとる。

海斗「皆勤賞だったのにな」
ましろ「いや、別に狙ってたわけじゃないから」

海斗「帰り、大丈夫か?」
ましろ「え? うん。大丈夫大丈夫! だいぶ覚えたから!」
海斗「掃除当番だっけ」

海斗、考える仕草をして、チラッとましろを見る。

海斗「部活、終わるまで待ってられるなら、道案内する」
ましろ「え……」
ましろ「いや、悪いよ。居候させてもらって迷惑かけるわけには」
海斗「里見が帰ってこなかったら母さんにボコられる」

ましろ(ありそう……)

ましろ「本当に、大丈夫なんだけど……」

ましろ(罪悪感を感じてるのかな)

ましろ(でも橘海斗と一緒に下校したなんてウワサがたったら……)

ましろは顔を青くさせ、チラッと海斗を見る。
そして、パッとひらめく。

ましろ「じゃあ、途中の駅から教えてくれる?」
海斗「途中?」
ましろ「乗り換えて迷ったところ」
海斗「ああ、御茶ノ水?」
ましろ「たぶん」
海斗「わかった。じゃあそこで」

満足したのか歩きだした海斗にホッとしていると、海斗が足を止めてふり返る。
そして、もどってくる。

ましろ「ど、どうしたの?」
海斗「連絡先、知らないから」

海斗がポケットからスマホをとり出す。

ましろ「え。は、はい」

海斗がははっと笑う。

海斗「なんで敬語」

ましろ、その顔に見とれて、すぐにハッとしてポケットからスマホをとり出す。
スマホを近づけて連絡先交換。
チャイムが鳴る。

ましろ「わ! 急がないと。授業まで遅刻しちゃう」
海斗「急ぐぞ」

海斗がましろの腕をぐっと引っ張った。


〇教室

教室にもどってきて、それぞれ席につく。
ましろたちは注目されるが、ちょうど担任がやってきて追及なし。
ましろ、こっそりとスマホでメッセージをおくる。

ましろ『届いてる?』

海斗が気づいたようにスマホを見る。
そして、ましろのほうを向いて「あほ。集中しろ」と口パク。

ましろ、黒板に向き直る。



〇教室(放課後)

人のいない教室で、パチンパチンとプリントをホッチキスで止めるましろ。

ましろ「先生の手伝いって……。地味」

最後の一枚を止めて、できあがったプリントの束を持って立ちあがる。


〇廊下

職員室の扉をしめるましろ。

ましろ「失礼しましたー」

昇降口に向かっていると、体育館に女の子たちが集まっていることに気づいた。

ましろ(なんだろう?)


〇体育館

カバンを持って人だかりに近づくましろ。
人のすき間からのぞく。

ハーフパンツと白Tシャツというラフな格好した海斗がバスケの試合をしていた。

ましろ(そういえばバスケ部だっけ!)

海斗がスリーポイントシュートを決めると、悲鳴が上がる。

女子A「橘くーん!」
女子B「きゃああああ! かっこいい!」

ましろ(すっごい人気。居候は絶対にバレないようにしなきゃ)

こっそりと帰ろうとしていると、シャツで汗をぬぐう腹チラ海斗とバチッと目が合う。
海斗は体育館の時計を見て、「もうすこし」と口パクでいう。

女子A「橘くん今なんて言ったの⁉」
女子B「私のほう見てた!」
女子C「違うでしょ! ありがとう、とか?」
女子D「応援ありがとうってこと⁉ きゃー! うれしい!」

ましろこっそりとその場をあとにする。
走って校門まで行って、膝に手をつきながらドキドキを抑える。

ましろ(顔がいいって、ずるい)
ましろ(いや、違う。顔がどうこうじゃなくて)
ましろ(あの大勢のなかで私に気づいてくれたことに、浮かれてる)

ましろ(ダメダメ! しっかりしなきゃ)
ましろ(大丈夫。イケメンは三日で見飽きるって言うし)

ましろほんのり赤い顔のまま、歩きだす。