案内されたのは角部屋の眺めのよい部屋だった。使用人たちが暮らす塔の最上階。他のフロアよりも部屋数が少ないため、余程のことがない限りは迷わずに済みそうだ。


 ちなみに、使用人の暮らすエリアに王族であるヴァーリックが入るのは好ましくないため、彼には執務室に戻って公務をしてもらっている。今この部屋にいるのはエアニーとオティリエだけだ。


「ベッドにドレッサー、クローゼット、文机、本棚……事前にある程度の家具は入れさせました。他に、なにか不足するものはありますか?」

「そんな……そんなこと、思うはずがありません。本当に、ありがとうございます」


 オティリエは恐縮しつつ、大きく頭を下げる。
 この部屋は実家のオティリエの私室よりもよほど広く、調度類も綺麗で豪華だ。ひそかに感動をしているオティリエに、エアニーは「いえ」と返事をした。


「それから、こちらはあなたの専属侍女のカランです」

「え? 私に侍女、ですか?」


 エアニーはうなずき、チラリと後ろを振り返る。次いで部屋に現れたのは、オティリエと同じ年頃の可愛らしい女性だった。


「カラン、オティリエさんに挨拶を」

「はい。あの……カランと申します。よろしくお願いいたします」


 カランはそう言って、オティリエに向かって頭を下げる。思わぬことにオティリエは視線を泳がせた。


「エアニーさん、お心遣いは大変嬉しく思います。ですが、私には侍女なんて勿体なくて……。実家でもそういった女性はつけてもらっていませんでしたし」


 なんなら食事すら自分で取りにいくような生活を送っていたのだ。これではあまりにも恵まれすぎていて、かえって怖くなってしまう。