城に着くと、幾人もの使用人たちがヴァーリックとオティリエを出迎えてくれた。車道に沿って立ち並ぶ使用人たちを見ながら、オティリエは思わず息をつく。


(そうよね。ヴァーリック様は王太子なのよね)


 本来ならば雲の上にいるはずの人。けれどその気さくさに、その温かさに、差し伸べてくれる手のひらに、優しい笑顔に、ものすごく近くにいるように感じてしまう。


「おいで、オティリエ。足元に気をつけて」

「あっ、ありがとうございます」


 オティリエがヴァーリックに手を引かれて馬車を降りると、プラチナシルバーの長髪の男性が前に躍り出て、恭しく頭を下げた。色白で線が細く、女性のように整った中性的な顔立ち。髪の色合いも相まって精巧な氷の人形のようにも見える。年齢はオティリエよりも数歳上だろうか? 落ち着いた大人の男性といった印象だ。


「おかえりなさいませ、ヴァーリック様」

「ただいま、エアニー。こちらがオティリエだよ」

「そうですか、こちらの女性が」


 エアニーと呼ばれた男性は、アイスブルーの瞳でまじまじとオティリエを観察したあと【なるほど、ヴァーリック様らしい】と心のなかで小さくつぶやいた。