「それから、これは今日の仕事のなかで一番大事なことなんだけど」

「は、はい! なんでしょう?」


 改まった様子で切り出され、オティリエの心臓がドキッと跳ねる。ヴァーリックはそっと瞳を細めた。


「昼食は僕と、他の補佐官たちと一緒にとること」

「え? それが一番大事なお仕事なんですか?」


 思いがけない内容に、オティリエは思わず聞き返してしまう。ヴァーリックがクスクスと声を上げて笑った。


「そうだよ。これから片腕として働いてもらうんだから、僕はオティリエのことをもっとよく知っておきたい。他の補佐官も同じ気持ちのはずだ」


 そう言ってヴァーリックはオティリエの目をじっと見つめる。好奇心に溢れた瞳。彼にはオティリエとは違って他人の心を読む能力なんてないはずなのに――まるで心を見透かされているかのような気がしてくる。


「それから、オティリエにも、僕のことをもっと知りたいと思ってもらえたら嬉しいな」

「え……? それはもちろん……知りたいと思ってます。もっと、もっと」


 オティリエがためらいがちにこたえれば、ヴァーリックは少しだけ目を見開き、恥ずかしそうに口元を隠す。


【『知りたい』って……言われる側は結構照れるものなんだな。というか、オティリエに興味を持ってもらえてるって思ったら、嬉しい】


 ヴァーリックはそっぽを向いて悩まし気なため息をつく。おそらく彼はオティリエに心の声が聞こえていると気づいていないのだろう。


(誰かの心の声が聞けて嬉しいって思ったのは、これがはじめてかも)


 楽しくて嬉しくてなにやらむず痒くて、オティリエは笑い出しそうになるのを必死に我慢するのだった。