【わたくしだけをかわいがって! オティリエのことなんて見ちゃいやだ!】


 きっとこれが、イアマがはじめて父親を魅了したときなのだろう。オティリエは心ががんじがらめにされるような息苦しさを感じた。


「オティリエ」


 父親がオティリエの名前を呼ぶ。それはイアマに対して向けられるのと同じ、温かく愛情のこもった視線――それから罪悪感に満ちた表情だった。しかし、それはほんの一瞬のことで、彼はすぐに元の冷たい瞳に戻ってしまう。


「………? なんだ今のは? …………いや、失礼いたしました。少々ぼーっとしてしまったようで」


 父親はハッと姿勢を正してから、ヴァーリックに向かって頭を下げる。ヴァーリックは「いや」と返事をしつつ、ふぅと小さく息をついた。


【まあ、十六年間も魅了――洗脳を続けられていたんだ。完全に正気に戻すことは不可能だと思っていた。でも、こうして接触を続けていたらもしかしたら――】


 ヴァーリックがチラリとオティリエを見る。オティリエはハッと息をのんだ。


(つまり、ヴァーリック様はお父様の身体のなかにあるお姉様の魅了の能力を無効化したってこと?)


 だとしたら、父親は心の底からオティリエを嫌っているわけではないのだろうか? いつかオティリエを認めてくれる日が来るのだろうか?