ヴァーリックに導かれ、オティリエは馬車に乗り込んだ。


「それでは侯爵、詳しいことは書面で」

「……本当にオティリエを連れて行くのですか、殿下?」


 オティリエの父親は恐縮しきった様子でヴァーリックの顔を覗き込む。ヴァーリックはコクリと大きくうなずいた。


「昨日の夜会でも伝えたけれど、オティリエ嬢の能力は素晴らしい。僕としては、ぜひともほしい能力だ。侯爵がそんなにも難色を示す理由が僕には理解できないな。……いや、原因については予想できるけどね」


 そう言ってヴァーリックは父親の肩をポンと叩く。その瞬間、父親の瞳がカッと大きく見開かれた。


「あ……あぁ…………? え? イアマ! オティリエ?」


 馬車のなかのオティリエを見つめつつ、彼は愕然と膝をつく。


(これは……お父様の記憶?)


 オティリエの脳内に勢いよく流れ込んでくる映像――幼い頃のイアマだ。傍らにはおくるみに巻かれた赤ん坊の姿。おそらくこちらがオティリエなのだろう。
 小さなイアマが父親の瞳を真っ直ぐに見つめる。