(たしかに、お父様の言うとおりだわ)


 今のままではオティリエはヴァーリックの力にはなれないだろう。彼女自身、元々は『もっと自分の能力を磨いてからヴァーリックに会いに行こう』と思っていたのだ。ヴァーリック自身が会いに――迎えに来てくれたからといって、それをそのまま受け入れていいのだろうか? 今の彼女では、ヴァーリックの力になるどころか、足手まといになるのではないだろうか?


「……そうだね」


 ヴァーリックが言う。悔しさのあまり、オティリエはグッと唇を噛んだ。


(わかっていたはずなのに。……私自身、そのほうがいいって思っているはずなのに)


 それでもオティリエの心がズンと沈んでしまう。もしも自分に言い返すだけの力があったら――そんなことを思ってしまう。
 と同時に、彼女の父親が「では!」と嬉しそうに微笑んだ。


「君の提案について、きちんと考えてみたよ。だけどね、たとえ即戦力にはならなくても、僕はオティリエ嬢をこの家に置いておきたくないんだ」

「え……?」


 オティリエと父親が同時につぶやく。ヴァーリックはオティリエに向かって微笑みかけた。


「殿下……」


 オティリエが静かに涙を流す。ヴァーリックは彼女の涙をそっと拭った。


「大丈夫。君の能力は僕が磨く。だから安心して。僕と一緒に行こう」


 改めて、目の前に差し出された手のひらをオティリエが見つめる。


 正直言って、今はまだヴァーリックの役に立てる自信があるわけではない。今はよくとも、いつかヴァーリックに幻滅されるのではないか――そんな不安も存在する。


(それでも)


 オティリエはヴァーリックの手を握る。
 彼とともに行きたい――側にいたい。役に立ちたいとオティリエは願う。


「決まりだ」


 ヴァーリックは満足気に微笑むと、オティリエの肩をポンと叩いた。