「あ、あの! 殿下、そろそろ降ろしてください。私はもう、大丈夫ですから」


 父親の咎めるような視線があまりにもいたたまれない。


「そう?」


 ヴァーリックは若干不服そうにしつつも、オティリエを降ろしてくれた。


「ところで、殿下はどうしてオティリエを……?」

「ああ、使用人たちからまだ聞いていない? イアマ嬢がオティリエ嬢にひどい仕打ちをしていてね。怪我をしていたから、こうして僕が連れてきたんだ」

「イアマが!?」


 父親は真っ青な顔で目を見開く。
 イアマがオティリエに対して冷たく当たるのはいつものことだ。けれど、それを他人に見られた経験はない。ましてやヴァーリックは王族だ。困惑するのは当然だろう。


「それは、あの……本当なんでしょうか? さすがにイアマも妹に怪我を負わせるようなことはしないはずで――なにかの間違いでは?」

「そう思いたい気持ちはわかる。けれど、本当のことだ」


 ヴァーリックは小さくため息をつきつつ、オティリエの父親をじっと見つめた。