「それじゃあ行こうか」


 ヴァーリックはそう言ってオティリエを抱き上げる。まったく予想していなかった行動に、オティリエは慌てふためいてしまった。


「えっ……殿下!? 私、自分で歩けます」

「だけど、さっきからふらついているだろう? 階段でこけたりしたら大変だ。いいから僕に捕まっていて」

「でも……」


 心配してもらえるのは嬉しいが、家族や使用人たちからの扱いとのギャップが大きすぎてまったくついていけない。恥ずかしさもあいまって、オティリエの顔は真っ赤に染まってしまった。


「では、僕たちはこれで失礼するよ」


 ヴァーリックはオティリエの表情をたっぷり観察したあと、イアマに向かって声をかける。彼女は拳を震わせつつ、二人のことをジロリと睨みつけた。


【許さない】


 イアマの激しい怒りが心の声と合わせてオティリエに伝わってくる。


【おっかないねぇ】


 けれどそれは、彼女の声が聞こえないヴァーリックも同じらしい。ヴァーリックはそうつぶやきつつ、オティリエに優しく微笑みかけるのだった。