「お父様!」


 イアマが父親の元へと駆け寄る。「会いたかった」と微笑むイアマを父親は優しく抱き寄せた。


「ああ、イアマ! おまえは今日も世界一可愛いな」


 そう口にしつつ、父親はゆっくりとオティリエのほうを向いた。


【それに比べてオティリエめ。いつ見ても可愛さのかけらもない。満足に父親への挨拶もできないのか? このできそこないめ】


 ピリつく空気。完全に挨拶のタイミングを失っていたオティリエはおずおずと「ご無沙汰しております、お父様」と頭を下げた。父親がフンと鼻を鳴らす。そんな二人の様子を見ながらイアマはニヤリと口角を上げた。


「ねえ、どうしてオティリエを食事に呼んだの? いつもみたいに二人で食事をすればいいじゃない?」

「すまないね、イアマ。お父様も当然おまえと二人きりの食事のほうがいいんだよ? だが、オティリエに話があったものだから」

「話って?」


 父親はイアマを席につかせるとおもむろに話をはじめた。


「近々王宮でパーティーが開かれる。そこにオティリエも連れて行くことになった」

「え……?」

「オティリエも? しかも王宮のパーティーに? そんな、どうしていきなり?」


 これまで夜会にはイアマしか参加してこなかった。オティリエには場にふさわしいドレスなど一枚も与えられたことはないし、そもそも屋敷内で存在自体がほとんど忘れ去られている。こんなふうに声がかかる日が来るとはイアマもオティリエも思わなかったのだ。


「私のいとこ――王妃殿下がオティリエに会ってみたいと思し召しなんだ。断るわけにはいかないだろう?」

「王妃殿下が? そう……それが理由なの」


 父親が積極的にオティリエを参加させたいわけではないと知り、イアマはほんの少しだけ態度を軟化させる。しかし、すぐに仰々しくため息をついた。