「家族だからなにをしてもいい――そんな考えがまかりとおるはずはないだろう? 君は他人を裁く立場にある領主の娘だ。そのぐらいは知っていてしかるべきだと思うけど」

「まあ! 殿下はわたくしがオティリエに対して暴力を振るったと思っていらっしゃいますの? そんなまさか! どんくさいこの子が自分で勝手に本棚にぶつかったのです。頬だって少し手があたってしまっただけで、暴力だと言われるようなものではありませんわ。ねえ、オティリエ」


 イアマはそう言いながら、オティリエのことを睨みつける。


【あんた、わかってるわよね? 下手なことを言ったら、ただじゃおかないわよ】


 おそろしさのあまりオティリエがゴクリとつばを飲む。ヴァーリックはそんなオティリエの様子を見ながら、彼女をそっと抱き寄せた。


「それで? 殿下はどうしてこんな早朝に我が家へいらっしゃいましたの? 事前のお約束もいただいておりませんし、こちらは愚妹の私室。あなたのような尊いお方がいらしていい場所ではございませんわ」


 イアマが微笑む。【悪いのはこんな時間に約束も取り付けずこんなところに来たあなたなのだ】と――さり気なく嫌味を散りばめつつ、論点をすり替えようという魂胆だ。


「来訪の目的は先ほども言ったとおりだよ。僕はオティリエ嬢を迎えに来たんだ。本当ならばきちんと先触れを出してから来訪するべきだけど、一秒でも早く彼女に会いたくてね。こんなにも早い時間の訪問になってしまった」


 ヴァーリックはそう言ってニコリと微笑む。オティリエの心臓が跳ねるとともに、イアマの頬がカッと赤くなった。