翌朝、オティリエはいつもより早く目を覚ました。


(本当に、夢のような夜だったな)


 まるで彼女の十六年間の人生を凝縮したかのよう。美しく着飾ったことも、屋敷の外に出かけたことも、誰かと会話をしたことだって今までで一番長かった。なによりもヴァーリックと出会い、彼に優しい言葉をかけてもらえたことがオティリエは嬉しい。かけがえのない経験だと感じていた。


 幸せな思い出にひたりながら、オティリエは静かに目をあける。見慣れた天井をぼんやりと見上げながら、まるで自分にかけられた魔法がゆっくりと解けていくかのような心地がした。


(お姉様、怒っていらっしゃるのでしょうね)


 イアマはほとんど無理やり屋敷に送還されたらしい。さすがの彼女もヴァーリックの従者を魅了して言うことを聞かせることはできなかったようで、渋々会場をあとにしたようだ。

 オティリエはというと、イアマが会場を去ってしばらくしたあと、ヴァーリックが手配してくれた馬車で屋敷への帰路についた。