「あ、あの、殿下。私、こういったことをされるのははじめてで……どう反応するのが正解かわからなくて」

「そうか……だったら、感じたままに反応したらいいよ。オティリエ嬢が嫌ならすぐにやめるし、嬉しいと思うならやめない。君がどう感じているかはちゃんと見極めるから安心して」

「私がどう感じるか、ですか?」


 オティリエはこれまで、極力感情というものを殺して生きてきた。そうしなければ悲しさや苦しさに押しつぶされてしまう。屋敷内には絶望しか存在しておらず、生きているのが辛くなってしまうからだ。

 けれど、こうして王宮に来て、ヴァーリックと会話をして、オティリエは絶望以外の感情を覚えはじめている。


(今は……)


 恥ずかしい。と同時に心がほんのりと温かい。
 こんなふうに誰かに褒められたり、触れられたり、優しくしてもらうのははじめてだった。きっとこれが『嬉しい』という感情なのだろう。


(私、嬉しいんだ)


 そう思ったら、なぜだか目頭が熱くなる。オティリエはヴァーリックにバレないよう、小さく鼻をすすった。